アプリの配信停止から見えたもの。Monaca開発チームの困難と対応策
こんにちは。アシアル広報チームです。
iPhoneやiPadなどiOS向けアプリの公式ストアであるApp Store。このApp Storeはどんなアプリでも掲載できる訳ではなく、アプリの掲載可否はAppleによる所定の審査に通過する必要があります。
アプリの運用保守をされている方のなかには、新規公開や更新時にAppleからリジェクト(審査で落とされること)を受けた経験を持っている方も少なくないでしょう。今回、私たちが開発しているMonacaアプリも、アプリ更新のタイミングでリジェクトを受け、さらにはApp Storeからの配信停止という厳しい結果となりました。この経験を通じて、私たちMonaca開発チームがどのように考えて対応したかをお伝えします。
突然の配信停止予告とストアからの削除
私たちが運営するモバイルアプリ開発プラットフォーム「Monaca」では、2013年のサービス開始以来、アプリ開発者が手軽に開発中のアプリをテストするための「Monacaデバッガー」を、Apple App StoreとGoogle Playストアで配信していました。
しかし、昨年、その状況が一変します。Apple App Store上でのアプリ配信が突然の停止。Apple本社から電話で連絡が届いたのです。
過去にも更新時にアプリがリジェクトされた経験もあり、その都度、Appleのサポートセンターとコミュニケーションを取り問題を解決していました。今回も、Monaca開発チームは突然の連絡にショックを受けつつも、同様のプロセスで、リジェクトの要因の部分を把握し、その点の改修を行う想定で進めていました。
しかしながら、今回の配信停止理由は「アプリそのものの役割にある」というような返答で、この「アプリの本質的な機能に問題がある」との指摘を解決することは大変困難でした。アプリ配信停止を受けた後も、何度も交渉を行おうと試みましたが、決定を覆すことはできませんでした。
少なくとも私たちが提供してきたプラットフォームのコンセプトはリリース当初から一貫して変わっておらず、Appleの規約変更が原因でもないことから、コンセプトがリジェクトの対象となったことは予想外でした。
アプリ運用で見落としがちな配信リスク
開発チームがモバイルアプリを運用するなかでは、セキュリティ対策、パフォーマンス改善、そしてOSバージョンアップに伴うアップデートなど、プロダクト自体の機能的な改良以外にも、多くのタスクが日々発生します。
その上で、今回の例のように、アプリ配信プロセスにおける各種対応も大変重要なタスクとなります。常にGoogleやAppleなどのプラットフォーマーが規定する各種ガイドラインとポリシーに適合している必要があるためです。
私たちのチームでも、アプリの主要な機能や品質とは直接関係ないような変更点の審査を何度も通過していました。このように12アプリの新規登録に通過し、長い間ストアでの配信が続いている状況では、認知バイアスが働き、アプリのリジェクトや配信停止のリスクを過小評価してしまいます。
リジェクトを回避するために
経験上、審査のたびに審査員は別の人が担当するようです。そして、審査員ごとにテスト内容に個人差があり、リジェクトする理由も異なります。
リジェクトの理由として、アプリ自体の機能的な不具合であったこともありましたが、審査員がアプリの目的や役割等について誤って理解していることが原因ということも少なくありませんでした。一方、その説明が明瞭でない事も多く、解釈の余地が大きいようなケースもありました。
こういう場合には「なぜ審査員がこの判断をしたのか?」と考えることが重要だと思います。例えば、意図せず審査員が誤解を招くような表現をしている可能性があります。スクリーンショットの説明が足りず、アプリの利用方法や目的、機能が十分に伝わっていない可能性も考えられます。
さらには、サービス全体の中で、アプリが果たす役割が明確に伝わっていないのかもしれません。アプリの利用シーンが審査員に理解してもらえるよう、具体的な説明内容を添えたり、動画などで捕捉するような事も、このようなリスクを回避することに繋がると思います。
配信停止を受けて
「Monacaデバッガー」の話に戻ります。アプリの配信停止が告げられた後、どのような影響が生じるのかを、正しく判断する必要がありました。アプリが無くなった後、どのような開発体験を提供できなくなるのか、アプリの開発工程のなかで生じる影響について検討を進めました。
このアプリは主に以下の機能を提供していました:
新しいプロジェクト(アプリ)を作成した後、すぐにモバイル端末で内容を確認できる
モバイル端末上で開発中のアプリの見た目(UI)を確認できる
モバイル端末上で開発中のアプリの機能を試せる
Monacaデバッガーがあれば、新しいプロジェクトを作成して、すぐに実機上で動作を確認できますが、Monacaデバッガーがない場合は、アプリを実機上で確認するためには、プロジェクトを作成した後、ビルド設定を行い、ビルドを実施する必要があります。プロジェクトの確認までに必要な手順が増えるのです。
特に、新しいプロジェクトを作成した後にすぐに確認できないという問題は、アプリがなくなることで最も大きな影響を受ける点だと考えました。
新機能「クイックビューア」を追加
Monacaでプロジェクトを作成した後、すぐに端末上で確認できることは重要だと思っていました。そのため、Monacaデバッガーを完全に代替できる訳ではないものの、ある程度実機上で確認する仕組みを提供するために、「クイックビューア」という新機能を開発しました。
この機能は、Webブラウザーを使ってプロジェクトをすぐに確認できるというものです。Monaca IDEに表示されたQRコードをモバイル端末で読み込むと、Webブラウザーが開き、開発中のプロジェクトが起動します。
また、クイックビューアを使用すると、アプリ配信停止によって発生するビルド設定とビルドの実行という手続きをスキップし、直接端末上でプロジェクト内容を確認できます。
Webブラウザーの成約上、一部のモバイル固有の機能(カメラなど)は利用できなくなりますが、私たちが一番大切にしたいと考えた「プロジェクト作成からのモバイル端末上での即時確認」という流れは維持できました。
今回の経験から学んだこと
iOSアプリの運用においては、技術的なアップデートだけではなく、アプリのガイドラインや審査基準への理解とそれに対応した適応力が重要であるということです。アプリがリジェクトされる、あるいは最悪の場合、配信が停止される可能性に対するリスクを、意識し続けることが大切です。
また、課題は新たな機会へと変えることができると実感しました。今回、「Monacaデバッガー」の配信停止という困難に直面しましたが、「クイックビューア」のような新機能開発の機会となりました。
アプリのリジェクトや配信停止は、開発者にとっては厳しい経験かもしれません。しかし、その経験がサービスの本質的なことをより深く考える機会となり、ユーザーへ提供する新たな価値を生み出すきっかけと繋げていけると思います。