顧客のビジネスに技術的なサポートをしたら結果的に経営レベルの課題解決になった話
こんにちは。アシアル広報チームです。5月に『顧客のシステム開発を振り返ったら、成功する企業には3つの条件があることに気づいた』をテーマにお話ししたプロジェクトマネージャーの笹亀 弘。
その際にご紹介したプロジェクトの中から、今回は保険系企業様の成功例について深掘りしていきます。
損害調査のためのアプリを共同開発~背景と概要
まず、保険系企業様の案件は、どういったものだったのでしょうか。
▼背景
・他社様(以下、A社)とのアプリの共同開発
・コラボレートしたA社とは以前からおつきあいがあり、A社にはアプリ開発に取り組みたい希望があった
・A社のエンジニアがアシアルに出向
▼開発したアプリの概要
・自然災害発生時に保険金を支払うための損害調査アプリ
保険会社は、例えば地震によって家屋が倒壊したときに、倒壊率などで加入者様にお支払いする保険金額を算出します。そのために行うのが損害調査です。
これまで損害調査は、紙、筆記具、傾斜計、カメラ、地図……と多くの機材を用いて行われていました。それらの機能をアプリに集約し、調査から見積もりまでタブレット1台で完結させること。また、現地で入力したデータが速やかに本部へ送られることや、自動的に保険金額が算出されることがプロジェクトの目的でした。
▼プロジェクトを進める際の一般的な業務フロー
現状の業務分析と把握
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課題と要望の整理
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設計
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開発、テスト計画の策定
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テスト
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リリース
保険会社様のアプリ開発プロジェクトも、この一般的な業務フローに沿って進みました。その中で、特に心がけたことや苦労したことなどがあった段階について、お話しします。
調査員の方が使いやすいアプリにするために~分析から開発・テストまで
▼現状の業務分析と把握
「これまでの業務は、すべて紙の上で行われていたので、その調査用の紙を全部いただいた上で、何を調査して、どういうふうな業務フローで、マニュアルがどうなっていて、説明はどうしているかなどをお聞きしました。紙がなくて、口頭だけで業務について聞いていたら、イメージが食い違っていたような気がして、すべての情報をいただいた上で把握するようにしました。
業務だけではなくて、実際にアプリを使う方についても伺っています。ターゲットを確認すると『調査員です』と。では、アプリを操作される調査員の方は何歳くらいの方々が多いですか? ということを聞き、実際に利用される調査員の方は50〜60代が多いとわかったんです。
利用される方がスマホに慣れていないユーザさんだというのは気をつけないといけないと思い、デザインチームのメンバーと話しながらプロジェクトを進めていました」
▼課題と要望の整理
「今まで紙で行っていた調査業務を完全に移行したいというのがご要望だったので、そこは忠実にアプリに落とし込みました。
例えば、入力する内容とか平面図上に損壊しているところを描くとか。クライアントから聞いた業務内容を一段階ずつ固めて、それを数珠繋ぎに作っていって最終的にアプリとして機能を網羅した、みたいな形です。
その上で大変だったのは、やはり保険会社さんですから、セキュリティがかなり厳しかったですね。回線の縛りもありました。そのために、データ量によって通信速度が遅くなることも。
それに対して、できるだけ遅くならないように、みたいな要望もありましたね。そこは通信会社側の問題でもあるんですけど、アプリのほうでも情報量をあまり多くしないとか画像はなるべく軽くするとか、そういった工夫をしました」
▼設計から開発まで
「一番気をつけたのは、調査員の方にとって使いやすいアプリということですね。具体的には、調査員の方は50〜60代の方が多く、スマホに慣れていない可能性が高いユーザ層であるということだったので、文字を大きくしたり、スマホの入力負担をなるべく減らそう、と。
入力するのって、けっこう手間じゃないですか。だから、ほとんど選択式にしたんです。選ぶところを選べば、自動的に計算されて数字が出てきます。平面図もペンを使って描くので、ソフトウェアキーボードで入力はしません。
ただ、今まで紙を使っていた調査員の方からすれば、いきなりすべてアプリになるという大きな変化なので、こういうふうに変わるんですよ、っていうのを説明するのはすごく大変で。それを解決するために、かなり細かい画面設計図とモック(※)を用意して説明しました。それから、サンプルアプリも。
ドットで線をつないでいってお絵かきをするようなアプリで、平面図に損壊部分などを書き込むところを説明して。アプリとしてのイメージが共有できることを大切にしました」
※モック……「モックアップ」の略語で、実物大の模型のこと。アプリ開発においては、プログラムによる動作は搭載されていないが、実物に近い画面を持つサンプルを指す。
▼テスト
「このアプリに関しては通常行うもののほかに、実際に調査員の方に使ってもらうテストもしました。その段階で、使い方やアプリ自体の問題はだいぶん潰せたんじゃないかなと思いますね。実証実験もしたんですけど、大きな不具合も特にありませんでした。機能改修とか追加とか、そういうご要望はちょこちょこ出てましたけどね」
アプリ開発がもたらした3つの課題解決とは
1. 調査効率アップ
完成したアプリは、「平成30年7月豪雨」で初めて使われましたが、現場の調査員の方からは、「調査効率が上がってよかったというお言葉をいただきました。その後、端末も導入する都道府県も増えているというお話も伺っています」。
2. 支払いの迅速化
調査効率が上がることによって、調査にかかるコストが低減。さらに、「一人あたりが担当できる範囲が広げられますし、多く調査員を投入すれば広範囲を早く調査できます」。その結果、「早く調査を終えられて、スピーディな保険加入者への支払いにつながっていきます」。
業務効率のアップ、コストカットという経営レベルの課題解決だけでなく、アプリの導入は保険加入者のメリットにもなりました。
3. パートナーの技術向上
A社は、サーバーサイドの開発やデータセンター事業を強みとしていましたが、スマートフォンやタブレットアプリ開発に取り組みたいという希望も。本プロジェクトへ出向という形でエンジニアに参画してもらいながら、チームメンバーとしてナレッジを吸収していただきつつ、共に保険会社様のアプリを開発しました。
「先ほど、機能追加の要望があったとお話ししましたが、それはA社のほうでアプリ改修をして追加しています。こちらでもフォローはさせていただきましたが、実際の開発はA社です。
チームメンバーとして共にアプリ開発をしたエンジニアは、プロジェクト終了後にA社へ戻り、勉強会を主催しながら社内に開発技術を広め、さらに、その他のアプリ開発をされているとも伺いました。A社のアプリ開発をしたいという希望を叶える架け橋にはなれたかなと思っています」
保険会社と加入者、そしてA社。一つのアプリが3社(者)に大きな実りをもたらしたのでした。
PROFILE 笹亀 弘(ささがめ・ひろし)
プロジェクトマネージャー
メンバー・チーム・お客さま、関わるすべての人に対して、一緒の目線で考え、誠心誠意をもって取り組むことを心がけています。最近はまっていることは、いろんな日本酒を飲むこと(辛口派)です。